本日、奈良先端科学技術大学院大学の博士前期課程に入学された348名の皆さん、博士後期課程に入学・進学された89名の皆さん、そしてそのご家族の方々に、本学の教職員を代表してお祝いを申し上げます。

 また、皆さんの新たなスタートをお祝いするために、お忙しい中、お時間を割いてご臨席くださいました、奈良県知事・山下 真さま、生駒市長・小紫 雅史さま、本学支援財団理事長で近鉄グループホールディングス株式会社 代表取締役会長の小林 哲也さま、そして本学同窓会会長の清川 清先生に心よりお礼を申し上げます。

 さて、皆さんが学びをスタートする大学院教育のシステムは、19世紀の後半にアメリカで発明され、その後世界に広がったとされています。講義科目もありますが、本学を含む大学院教育の特徴は、研究を中心とした専門教育であり、皆さんも自らの研究テーマに取り組むことで、学びを積み重ねていくことになります。ただし、皆さんが実際に奈良先端大で取り組む研究は、皆さんの学びのためだけの「実習」ではありません。わたしたち人類にとって新しい知見、新しい技術を獲得するための最先端の研究に皆さん自身が取り組むのが、奈良先端大での学びです。本学で山中伸弥先生とその研究室の大学院生がiPS細胞の作成に成功し、その後のノーベル賞受賞へとつながったのは、皆さんもよくご存知の一例です。

 実際に、本学の大学院生は、税金など公的な資金で支援された研究に取り組んでいます。なぜ、先端的な科学研究が公的な資金で行われるのかについて、以前、アメリカのオバマ大統領が米国ナショナルアカデミーの会議において行なったスピーチで次のように述べています。まずは原文で紹介します:
 The fact is an investigation into a particular physical, chemical, or biological process might not pay off for a year, or a decade, or at all. And when it does, the rewards are often broadly shared, enjoyed by those who bore its costs but also by those who did not.
 And that's why the private sector generally underinvests in basic science, and why the public sector must invest in this kind of research--because the risks may be large, so are the rewards for our economy and our society.
 日本語に翻訳しますと:
 「物理的、化学的、あるいは生物学的現象の研究には、1年間、10年間、あるいは全く報われないかもしれないものもあります。しかも、それが実を結んだ時、その成果は研究のコストを負担した人だけでなく、負担しなかった人たちにも広く共有されることになります。民間が一般的に基礎科学に投資しないのはそのためであり、だからこそ公的資金をこの種の研究に投資しなければならないのですーなぜなら、リスクは大きいかもしれないが、私たちの経済と社会にとっての見返りも大きいからです。」

 本日入学した皆さんも、公的な資金で助成を受けた研究に取り組みながら、大学院生としてのトレーニングを積み重ねていくことになります。研究の中で磨くことができるスキル、能力には様々なものがあります。取り組むべき課題や問題を見つける能力、見つけた課題・問題について情報を集め、評価・処理する能力、仮説を立て、それを検証する能力、論理的思考や批判的思考、そして口頭や文章でコミュニケーションしたり、情報発信する能力などです。繰り返しになりますが、皆さんが取り組むのは実習ではなく、公的な資金を投資して行われる最先端の研究ですから、いずれのスキル、能力についても高いレベルが求められることになります。この高いレベルの大学院教育が、本学の卒業生の高い評価につながっているのです。

 そんな本学での学びの中で、皆さんに是非、楽しんでもらいたいのは、変化していく自分です。奈良先端大には "Outgrow your limits"というモットーがあります。"your limits"は今の皆さんそれぞれを限定、規定している「境界」というような意味です。ですから、"Outgrow your limits"は「自分の殻から成長して抜け出そう」という意味になります。本学で皆さんは、様々な知識や研究と出会い、いろいろな先生や研究者と出会い、新しい友人もできるでしょう。そして、自らの研究テーマに取り組む中で、自分にとって初めての、いくつもの挑戦に立ち向かうことになります。その中で、成長し、変わっていく自分を楽しんでもらいたいのです。

 今まで理解できなかったことが、わかるようになる。それまで興味が無かったことが面白くなる。自分が嫌いだと思っていたことが好きになる。新しい仲間と研究に取り組むなかで、自分が変化する喜び、自分を新たにcreateしていく喜びを経験することができるのが、本学、奈良先端大です。
 "Life is like riding a bicycle. To keep your balance, you must keep moving."
 「人生とは自転車のようなもの。倒れないためには走り続けなければならない」
 アインシュタインの言葉です。是非、この大学が提供する様々な機会やリソースを積極的に活用し、変化していく自分の目に映る風景が変わっていくのを確かめながら、博士前期課程2年間、あるいは博士後期課程3年間の「ツーリング」を楽しんでください。

ようこそ、奈良先端大へ。
そして今日からOutgrow your limits!

2024年4月5日
奈良先端科学技術大学院大学
学長 塩﨑 一裕